
コラムCOLUMN
歯列矯正後の後戻りを確実に防止する5つの習慣
歯列矯正後の後戻りとは?その原因を理解しよう

歯列矯正を終えた瞬間の喜びは、何物にも代えがたいものです。長い期間の治療を経て、ようやく理想の歯並びを手に入れた達成感。鏡で自分の笑顔を見るたび、その喜びがこみ上げてくることでしょう。
しかし、矯正治療が終わったからといって、そこで全てが終わりではありません。実は、この後に最も重要な「保定期間」が待っているのです。
「後戻り」という言葉をご存知でしょうか?辞書的な意味では「良い状態から悪い状態へ戻ること」を指しますが、歯科矯正においても同じ意味を持ちます。せっかく整えた歯並びが、時間の経過とともに元の状態に戻ろうとする現象です。
なぜこのような現象が起こるのでしょうか?
歯は一生動き続けている
多くの方が誤解されていますが、歯は生えてきた後も同じ位置に固定されているわけではありません。私たちの歯は一生を通じて少しずつ動き続けているのです。
日常生活の中で、食べ物を噛む力、舌の動き、顎の使い方など、さまざまな力が歯にかかっています。これらの力によって、歯は少しずつ位置を変えていくのです。
特に矯正治療直後は、歯を支える骨(歯槽骨)や周囲の組織がまだ完全に安定していません。この状態で通常の生活を送ると、歯は元の位置に戻ろうとする力が働きます。
後戻りが起こりやすい条件とは
後戻りのリスクは、すべての方に均等にあるわけではありません。特に以下のような条件では、後戻りが起こりやすくなります。
- 抜歯矯正を行った場合:歯を抜いて空いたスペースに他の歯を移動させた場合、その歯は元の位置に戻ろうとする力が強く働きます。
- 大きく歯を動かした場合:矯正前と矯正後の歯の位置の差が大きいほど、後戻りのリスクも高まります。
- 口呼吸や舌の癖がある場合:口呼吸や舌で歯を押す癖がある方は、無意識のうちに歯に力がかかり、歯並びが崩れやすくなります。
- 歯ぎしりや食いしばりの習慣がある場合:就寝中の歯ぎしりや日中の食いしばりは、歯に大きな力をかけ、歯並びに影響を与えます。
私は25年間、大学病院での臨床経験を通じて、多くの患者さんの後戻りケースを見てきました。その経験から言えることは、後戻りは「予防できる」ということです。
では、どうすれば後戻りを防ぐことができるのでしょうか?
習慣1:リテーナーを正しく使用する
矯正治療後の後戻りを防ぐ最も重要な習慣は、リテーナー(保定装置)の正しい使用です。リテーナーは、整った歯並びを維持するための専用装置で、矯正装置を外した後に使用します。
私の臨床経験から言えば、後戻りの原因で最も多いのが「リテーナーの装着を怠った」ケースです。せっかく理想の歯並びを手に入れても、リテーナーをきちんと使用しなければ、その成果は長続きしません。
リテーナーの種類と特徴
リテーナーには大きく分けて「固定式」と「取り外し式」の2種類があります。それぞれの特徴を理解し、自分に合ったタイプを選ぶことが重要です。
- 固定式リテーナー:歯の裏側にワイヤーを接着して固定するタイプです。目立たず、装着忘れの心配がないのが最大のメリットです。ただし、歯磨きがしづらいため、清掃に工夫が必要です。また、一部分だけ外れると、その歯だけが動いてしまうリスクがあります。
- 取り外し式リテーナー:マウスピースのように取り外しができるタイプです。食事や歯磨きの際に外せるため衛生的ですが、装着忘れや紛失のリスクがあります。当院では透明なマウスピース型リテーナーを主に使用しています。歯全体を覆うため保持力が強く、透明で目立たないのが特徴です。
どちらのタイプも、正しく使用すれば後戻りを効果的に防ぐことができます。重要なのは、歯科医師の指示に従って適切に使用することです。
リテーナーの正しい使用方法
リテーナーの使用方法は、矯正治療の内容や患者さんの年齢、歯の状態によって異なります。一般的な使用方法は以下の通りです。
- 初期(6ヶ月程度):食事と歯磨き以外の時間はリテーナーを装着します。1日20時間以上の装着が推奨されます。
- 中期(6ヶ月〜1年):歯の安定に合わせて、夜間のみの装着に移行していきます。
- 長期(1年以降):個人差はありますが、週に数回の夜間装着など、徐々に頻度を減らしていきます。ただし、完全に中止するのではなく、可能な限り長期間続けることをお勧めします。
当院では、矯正治療後2年間のフォローアップを行っています。最初の半年間は食事以外の時間はリテーナーを装着していただき、その後夜間のみに移行します。約3ヶ月に1回の定期検診で、後戻りの兆候がないか、リテーナーが適切に機能しているかをチェックします。
習慣2:正しい口腔機能を身につける
歯並びは、口の中の筋肉のバランスによって大きく影響を受けます。特に舌の位置や使い方、呼吸の仕方は、歯並びの安定に直結する重要な要素です。
私が大学病院で研究してきた分野の一つに「口腔筋機能療法(MFT)」があります。これは、口腔周囲の筋肉の機能を改善するトレーニング方法で、矯正治療の効果を高め、後戻りを防ぐのに非常に効果的です。
正しい舌の位置と使い方
舌は非常に強い筋肉で、その位置や動きが歯並びに大きな影響を与えます。正しい舌の位置は、上あごの前方部分(口蓋前方部)に軽く接触している状態です。
しかし、多くの方が無意識のうちに舌で前歯を押したり、舌を下に落としたりしています。こうした癖が、せっかく整えた歯並びを崩す原因になるのです。
舌の正しい位置を身につけるためのトレーニングを、日常生活に取り入れてみましょう。
- スポットトレーニング:舌の先を上あごの前方部分に軽く当て、その位置を30秒間キープします。これを1日に数回行います。
- 舌押しトレーニング:舌で上あごを軽く押し、その力を維持したまま、ゆっくり「ン」と発音します。これを10回繰り返します。
これらのトレーニングは、正しい舌の位置を無意識のうちに保てるようになるまで続けることが大切です。
口呼吸から鼻呼吸へ
口呼吸は、歯並びに悪影響を与える大きな要因の一つです。口を開けて呼吸していると、舌が下がり、頬の筋肉のバランスが崩れ、歯に不自然な力がかかります。
私が特に小児矯正で重視しているのが、この「口呼吸の改善」です。口呼吸を鼻呼吸に変えることで、歯並びの安定だけでなく、全身の健康にも良い影響をもたらします。
鼻呼吸を習慣化するためのトレーニングとして、以下を実践してみてください。
- 意識的な口閉じ:日中、意識的に唇を軽く閉じ、鼻で呼吸する習慣をつけます。
- テープトレーニング:就寝前に、医療用テープで唇を軽く閉じる練習をします(医師の指導のもとで行ってください)。
- 腹式呼吸の練習:鼻から息を吸い、お腹を膨らませ、再び鼻からゆっくり息を吐きます。これを1日数回、5分程度行います。
私の臨床経験では、口呼吸を改善することで、矯正後の歯並びの安定性が格段に向上することが確認されています。
習慣3:定期的なメンテナンスを欠かさない
矯正治療が終わった後も、定期的に歯科医院を訪れることは非常に重要です。特に保定期間中は、歯並びの状態やリテーナーの適合性をチェックするために、定期的な検診が欠かせません。
「もう治療は終わったから大丈夫」と思って通院をやめてしまうと、気づかないうちに後戻りが進行していることがあります。早期に発見できれば簡単に対処できる問題も、時間が経つと再矯正が必要になるケースもあるのです。
定期検診の重要性
定期検診では、以下のようなチェックが行われます。
- 歯並びの確認:後戻りの兆候がないか、歯の位置を詳細にチェックします。
- リテーナーの適合性確認:リテーナーが正しく機能しているか、摩耗や変形がないかを確認します。
- 口腔内の健康状態チェック:虫歯や歯周病など、歯並びに影響を与える可能性のある問題がないか確認します。
- 咬み合わせの確認:上下の歯の咬み合わせが適切か、機能的な問題がないかをチェックします。
当院では、保定期間中の定期検診は矯正治療費に含まれています。患者さんの経済的負担を減らし、継続的なケアを受けやすくする工夫をしています。
リテーナーのメンテナンス方法
リテーナーは毎日使用するものですので、適切なお手入れが必要です。特に取り外し式リテーナーは、以下のようなメンテナンスを心がけましょう。
- 毎日の洗浄:リテーナーを外した際は、必ず流水で洗い流します。専用の洗浄剤を使用するとより効果的です。
- ブラッシング:歯ブラシを使って、リテーナーの内側と外側を優しく磨きます。強くこすると傷がつくので注意が必要です。
- 保管方法:使用しないときは、専用のケースに入れて保管します。高温の場所や直射日光は避けましょう。
- 定期的な交換:リテーナーは使用していると徐々に劣化します。変形や破損が見られたら、早めに歯科医師に相談しましょう。
私がこれまで見てきた中で、リテーナーを清潔に保ち、定期的にメンテナンスを受けている患者さんは、後戻りのリスクが明らかに低いという傾向があります。
習慣4:歯に負担をかける習慣を改める
日常生活の中には、知らず知らずのうちに歯並びに悪影響を与える習慣がたくさんあります。これらの習慣を改めることで、矯正後の歯並びを長期間維持することができます。
特に注意したいのは、歯に過度な力をかける習慣です。これらは歯を少しずつ動かし、後戻りの原因となります。
歯ぎしり・食いしばりへの対策
歯ぎしりや食いしばりは、歯に大きな負担をかける習慣です。特に就寝中の歯ぎしりは、自分では気づきにくいため厄介です。
歯ぎしりや食いしばりがある方は、ナイトガード(就寝時に装着する保護装置)の使用をお勧めします。ナイトガードは、歯ぎしりによる歯への負担を軽減し、歯並びの保護に役立ちます。
また、日中の食いしばりに対しては、以下のような意識的な対策が効果的です。
- リマインダーの活用:スマートフォンのアプリなどを使って、定期的に「歯を離す」ことを思い出すようにします。
- 正しい舌の位置:舌を上あごに軽く当てる習慣をつけると、自然と歯が離れた状態になります。
- ストレス管理:食いしばりはストレスと関連していることが多いため、ストレス管理も重要です。
私の診療では、矯正治療と並行して、これらの習慣改善のサポートも行っています。歯並びの美しさと機能性を長期間維持するためには、総合的なアプローチが必要だからです。
爪噛み・頬杖などの癖を直す
爪を噛む習慣や、頬杖をつく癖も、歯並びに悪影響を与えます。これらの習慣は、歯に不均等な力をかけ、少しずつ歯を動かしてしまうのです。
これらの癖を改善するためには、まず自分の習慣を意識することが第一歩です。そして、以下のような対策を試してみましょう。
- 爪噛みの対策:マニキュアの使用や、指先を常に清潔に保つことで、爪を噛む衝動を減らします。
- 頬杖の対策:デスクワークの姿勢を見直し、適切な高さの椅子と机を使用します。また、定期的に姿勢を変える習慣をつけましょう。
- 代替行動の開発:癖が出そうになったときに、別の行動(例:深呼吸、ストレッチなど)に置き換える練習をします。
これらの習慣改善は、一朝一夕にはいきません。しかし、少しずつ意識を変えていくことで、歯並びの安定に大きく貢献します。
習慣5:バランスの取れた食生活を心がける

食生活も、歯並びの安定に大きく影響します。特に矯正治療後は、歯や顎の健康を維持するための栄養素が重要です。
私が患者さんにお伝えしているのは、「歯は生きている」ということです。歯や歯を支える骨、歯茎は、適切な栄養素があってこそ健康を維持できます。
歯や骨の健康を支える栄養素
歯や骨の健康に特に重要な栄養素は以下の通りです。
- カルシウム:歯や骨の主成分であり、強度を維持するために不可欠です。乳製品、小魚、緑黄色野菜などに多く含まれます。
- ビタミンD:カルシウムの吸収を助ける栄養素です。日光浴や魚類、キノコ類から摂取できます。
- ビタミンC:歯茎の健康を保つために重要です。柑橘類や緑黄色野菜に豊富に含まれます。
- タンパク質:組織の修復や再生に必要です。肉、魚、豆類、卵などから摂取できます。
これらの栄養素をバランスよく摂取することで、歯や顎の健康を維持し、矯正後の歯並びの安定にも寄与します。
咀嚼力を維持するための食習慣
現代の食生活は柔らかい食べ物が多く、顎の筋肉が十分に使われないことが多いです。しかし、適度な咀嚼は顎の健康を維持し、歯並びの安定にも役立ちます。
以下のような食習慣を心がけましょう。
- よく噛んで食べる:一口30回程度を目安に、ゆっくりとよく噛んで食べる習慣をつけます。
- 硬さのある食品を取り入れる:根菜類や繊維質の多い野菜、噛みごたえのある肉など、適度な硬さのある食品を食事に取り入れます。
- バランスの良い食事:柔らかい食べ物だけでなく、様々な食感の食品をバランスよく摂取します。
ただし、極端に硬い食べ物(氷を噛む、固いキャンディーなど)は、歯に過度な負担をかけるため避けるべきです。適度な硬さの食品を、よく噛んで食べることが理想的です。
私の臨床経験から、食生活に気を配っている患者さんは、口腔内の健康状態が良好で、矯正後の歯並びも安定している傾向があります。
まとめ:美しい歯並びを一生涯キープするために
歯列矯正後の後戻りは、適切なケアと習慣によって防ぐことができます。これまでご紹介した5つの習慣をまとめると、以下のようになります。
- リテーナーを正しく使用する:歯科医師の指示に従い、適切な期間と方法でリテーナーを使用することが最も重要です。
- 正しい口腔機能を身につける:舌の正しい位置や鼻呼吸の習慣化など、口腔機能の改善が歯並びの安定に寄与します。
- 定期的なメンテナンスを欠かさない:定期検診でのチェックとリテーナーのメンテナンスが、長期的な歯並びの安定につながります。
- 歯に負担をかける習慣を改める:歯ぎしりや食いしばり、爪噛みなどの習慣を改善することで、歯への負担を軽減します。
- バランスの取れた食生活を心がける:適切な栄養素の摂取と咀嚼力の維持が、歯や顎の健康をサポートします。
矯正治療は、美しい歯並びを手に入れるための第一歩に過ぎません。その成果を長く維持するためには、治療後のケアが不可欠です。
私は25年間の臨床経験を通じて、多くの患者さんの歯並びの変化を見てきました。その経験から言えることは、「継続は力なり」ということです。日々の小さな習慣が、長期的には大きな違いを生み出します。
美しい歯並びは、自信につながり、人生をより豊かにする力を持っています。ぜひ、これらの習慣を取り入れて、矯正治療の成果を一生涯キープしてください。
お口の健康と美しい笑顔のために、私たちRYU矯正歯科クリニック郡山プレミアは、これからもサポートを続けていきます。矯正治療後のケアについて不安や疑問がありましたら、いつでもご相談ください。
詳しい情報や矯正治療についてのご相談は、RYU矯正歯科クリニック郡山プレミアまでお気軽にお問い合わせください。あなたの素敵な笑顔を、これからも守り続けるお手伝いをさせていただきます。
監修医師
竜 立雄(りゅう たつお)先生

RYU矯正歯科クリニック郡山プレミア 院長/歯学博士
日本矯正歯科学会 認定医・指導医
日本アンチエイジング歯科学会 認定医
日本3Dプリンティング矯正歯科学会 理事(認定医)
日本舌側矯正歯科学会 理事
東北矯正歯科学会 評議員
日本顎変形症学会、日本口蓋裂学会、日本成人矯正歯科学会、日本小児歯科学会、日本口腔筋機能療法(MFT)学会 など所属
経歴
奥羽大学歯学部 卒業
奥羽大学附属病院 矯正歯科にて25年間、診療・教育・研究に従事
論文・著書の執筆や学会発表、依頼講演多数
2022年6月 「RYU矯正歯科クリニック郡山プレミア」開院
院長メッセージ
「矯正治療は、単に歯並びを整えるだけでなく、噛み合わせや呼吸、発音、そして全身の健康にも大きな影響を与える大切な治療です。私はこれまで大学病院での臨床・研究を通じて、幅広い年齢層の患者さまと向き合ってまいりました。その経験を活かし、当院では最新のデジタル技術や精密機器を駆使しながら、一人ひとりに合った安心・安全な治療を提供しています。
お子さまの健やかな成長を支える矯正治療から、大人の方の目立ちにくい矯正治療まで、地域の皆さまに信頼いただける“かかりつけの矯正歯科”を目指してまいります。
